いきなりですが、質問です。あなたは「日本で最初に靴下を履いた人」が誰か知っていますか? その人物は、テレビの時代劇で最も有名な主人公の一人……と言えばおわかりでしょうか?
答えは「この紋所が目に入らぬか!」でおなじみの水戸黄門(徳川光圀公)です。このエピソードは日本靴下協会が発行した『THE BOOK OF SOCKS AND STOCKINGS(荒俣宏 著・監修)』に掲載されており、実際に水戸黄門が履いたとされる靴下(レプリカ)が株式会社ナイガイ(東京・赤坂)の靴下博物館に展示されています。
読者の皆さま、はじめまして。私は奈良県香市で靴下を製造・販売している日本ニット株式会社の3代目社長、里井謙一と申します。
祖父が靴下作りを始めたのが1940(昭和15)年のこと。それから84年間、靴下を作り続けてきました。おかげで、地元では子どもの頃から「靴下王子」と呼ばれています(笑)。
有名下着メーカーや、高級子ども服メーカーのOEM商品も手がけているので、読者の皆さんも知らないうちに当社の製品を使ってくださっているかもしれません。
さて、そんな当社の自慢は、ずっと「国内生産を貫いてきた」ことです。奈良県の自社工場で、商品企画から製品完成まですべて社員が「誇り」と「責任」を持って取り組んでいます。
このように言うと、「えっ! 今どき国内で靴下を作っているの?!」「人件費の安い海外で作るのが常識じゃない?」と驚かれる方もいるでしょう。
たしかに、日本靴下工業組合連合会の「靴下需給推移(2023年)」というデータによると、国内市場における靴下の「輸入浸透率」は88.5%。つまり、国内で流通している靴下の9割は海外で生産されたものです。
さらに、靴下作りに関わる国内企業も減少し続けてきました。事実、日本靴下工業組合連合会の会員企業数は、1999年には全国で677社もあったのに、2019年には232社と3分の1に減っています。
しかし、当社はそんな時代の中で、1足1000円以上の靴下を販売して生き残ってきたのです。それを可能にしてくれたのが「国内生産」と「地元密着」へのこだわりでした。
今、多くの企業が後継者不足に悩み、廃業の危機に瀕しています。このような事態に陥っているのは、多くの経営者が自社の将来を悲観し、「次世代に会社を引き継がせても未来はない」と考えているためでしょう。私自身も3代目なので、その気持ちはよくわかります。
しかし、1988(昭和63)年に父が、そして2013(平成25)年に私が社長を引き継ぎながら、当社は堅実に利益を出し続けることができています。それは、何も特別なことをしたわけではありません。自社の「足元」をいつも意識し、見直してきただけです。
会社の代表者となって11年、過去を振り返って断言できます。会社経営で最も大切なのは「足元を見直す」ことです。そして、後継者にも「足元経営」の大切さを伝えることができれば、安心して後を任せられます。
日本には、昔から「足」を使った「ことわざ」や「言い回し」が驚くほどたくさんあります。おそらく、日本が2000年以上続く農耕社会であり、あらゆる場面で足が重要だったからでしょう。その結果、生活や文化における教訓や知恵を伝える際の比喩として、「足」が使われてきたのだと思います。
本書では中小企業経営を「足元」というキーワードから解説し、継続的に発展させていくヒントをお伝えしたいと思います。